☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会(10)

2022年1月

『イエペは ぼうしが だいすき』 石亀泰郎作  文化出版局 


 先月に続き石亀泰郎さんの作品です。先月の作品よりも20年以上前の作品ですが、長く読み継がれているようです。わが家にあるのは2002年52刷のものです。

 主人公は3歳のイエペ君。デンマークのコペンハーゲンに住んでいます。作者は、この男の子に公園で出会い、この子が帽子が好きで100個も持っているという話を聞いたことから、この作品は生まれました。100個の帽子の中で特に気に入っているのは、茶色の帽子。この帽子は、この子の頭にはまだ大きくてぶかぶかに見えるのですが、これを被っていないと元気がでない、調子がでないのです。どんなにこの帽子が好きかがわかります。

 保育園で雨あがりに外で遊ぶときには、茶色の帽子ではなくレインコートとおそろいの黄色い帽子ですが、これはイエペ君も仕方ないとわかっているようです。

家族も保育園の先生、友達もイエペ君の帽子好きは認めてくれています。園の中にいる時やお弁当の時間にも帽子を被っています。

日本では、室内で帽子を被る習慣はあまりありませんから、イエペ君の行動はわがままだと思われるかもしれません。デンマークでは個を育てることや合理的なことが重んじられていますから、室内でも帽子を被る事が、本人が自分らしくいられ、他の子どもや園生活に支障がなければ、良しとされているのだと思います。

 イエペ君のクラスには、帽子を被っている子がもう一人います。この子も今被っている青いキャップがお気に入りなのでしょうね。

 中にはいつも帽子を被っていることをからかったり、帽子を取ろうとする子がいたりもします。それで帽子をかぶらずに保育園に行ったら、いつものイエペ君のようには行動できません。元気のないイエペ君を友達は慰めてくれるし、先生は何か頭にのせてみたらと言ってくれます。つぶれたサッカーボールを頭にのせたら、気持ちが晴れたというイエペ君の姿にこちらの頬も緩みます。

 次の日はまた茶色の帽子を被って保育園へ。遠足もあり、うれしそうにスキップ。その日はぐっすり眠れたイエペ君。もちろん大好きな帽子を傍においています。

子ども時代にお気に入り毛布やおもちゃがあったという方もおられるでしょう。それは大人になっても趣味や身に着けたり、身近に置いておく物などとなって同様に存在していると思います。自分を落ち着かせたり、気分転換させたりする大事なものであり、自分を表す一面、特徴でもあるでしょう。

 イエペ君はなぜ帽子が好きか、日よけになるし、、、と理由を考えてみたけど、理屈なしに好きなのだと気づきます。 帽子の色、形、被った時の感覚、ぶかぶかの帽子ですから、誰かからもらったのかもしれません。まだ3歳ですから、感覚的なことはうまく言葉で説明できないところもあるでしょう。

 自分のお気に入りの物をとおして、自分を理解すること、自分のお気に入りを回りの人が大事に考えてくれるという体験が、人の理解や相手にも好みがあり大切にしてあげる必要があるということにつながるのではないかと思います。

 イエペ君をからかったりする子もいますが、この園ではその子たちも同じように大事にされているでしょうから、からかいがいじめに発展する可能性は少ないのではないでしょうか?

 この本が長く読み継がれている理由は、一途に帽子が好きなイエペ君の可愛らしさもですが、子どもが大事に育てられている様子に深く共感できるからではないでしょうか?

 ルイス(Lewis,M)という発達心理学者がいます。ルイスの理論では、ヒトは、誕生直後に3つの基礎感情「快、不快、関心(興味)」があり、それが分化して、6ヶ月頃に「6つの基礎感情(一時的感情)を持つようになるとされています。「6つの基礎感情」とは、「喜び、悲しみ、嫌悪、怒り、恐れ、驚き」だそうです。それらをベースに1歳半頃に、自己意識が生まれて、「照れ、妬み、共感」が生まれ、さらに、3歳頃に、他者との関係の中で外的な基準、ルールを学んで、「誇り、恥、罪悪感」という「二次的感情」が生まれるのだそうです。このルイスの「ヒトの感情の分化」理論をベースに、ライフスキルによる説明をしてみたいと思います。

イエペ君にとっては、帽子を被ることは、「快」「関心」という基礎感情を呼び起こす、大事な「身につけるもの」となっています。友だちからからかわれるので、自らの意思で帽子を被らないで登園すると、元気がでない。「さびしさ」を強く感じてしまいます。先生の勧めで、ぺちゃんこのサッカーボールを被ると気持ちは少し晴れますが、その日の保育園活動は、ほんの少し持ち直した気分のまま終えたようです。次の日、茶色の帽子を被って登園すると、遠足でした。やはり大好きな茶色の帽子を被ってこそいつもの元気なイエペ君に戻ることができたのでした。遠足では、スキップしたくなるほどの「(大きな)喜び」を感じて活動しています。自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、意思決定スキル、問題解決スキル、感情対処スキル、ストレス対処スキルなどを使いながら、ライフスキルをアップしていくひとりの子どもの成長する姿を、読者も生き生きとした「共感」をもって、読むことができる写真絵本となっています。

 イエペ君は、友だちがからかう気持ち(おそらく、いつもは仲良しさんなのでしょう)を一旦は受け入れて、帽子を被らないで登校してみます。すると「快」ではなく「不快」を強く感じ、「外への興味関心」を失った状態になってしまいます。それに気づいた先生の提案は「なにかのせてみたら?」でした。それでイエペ君は、自分の力でぺちゃんこのサッカーボールをのせてみるという「問題解決」を試みました、完璧ではなかったけど、それだけで気分は少し晴れました。そして、次の日は、「茶色の帽子を被るっていることが一番心地よい(快)のだ」という「自己認識」の元、茶色の帽子を被るという「意思決定」をして登園しました。するとその日は、茶色の帽子を被って遠足に出かけるという最高の一日になったのでした。

 「意思決定」を「よりよく」をめざしている保育園の先生の、決めつけるのではなく「なにかのせてみたら?」という声かけも素晴らしいですね。先生の「効果的コミュニケーションスキル」の高さを感じました。

 この絵本の中には、からかうお友だちだけではなく、なぐさめてくれるお友だちも登場します。成長していくために欠かせない、子ども同士、先生やお父さんたち大人とのよい関わりがみごとに描かれた一冊です。



*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス対処スキル 以上10の技術のことです。いずれも 心理・社会的変化に対する適応能力を高めるスキルです。

廣岡綾子・逸樹   


閲覧数:5回0件のコメント