☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会(3)
更新日:2021年6月20日

2021年 6月
『うさこちゃんときゃらめる』 ディック・ブルーナ ぶん・え
松岡享子 やく 福音館書店
表紙のうさこちゃんは小さく口をつぐんで青い服を着ています。そのポケットからのぞいているのは、キャラメルです。そして裏表紙は青地にカラフルなキャラメルの絵です。
ブルーナの色使いのなかでは、青は不安、怖さ、寒さなどを表すとされています。つまりこの作品は、甘くて、うれしくなるキャラメルの話ではなく、クッキーを買いに行くお母さんについて行ったうさこちゃんがお店でキャラメルを盗んでしまうお話なのです。
かわいい、しっかり者のうさこちゃんのイメージからすると「えーっ」かもしれませんね。この本のことを話すと、そのような反応がよくかえってきます。
しかし、考えてみれば子どもは衝動的にこうしたことをしてしまうことはありうることです。要は、大人が子どもと共にどうしたら衝動性をコントロールできるようになるか、善悪のしつけ、責任の取り方について導いていくことに取り組むことです。
キャラメルを取ってしまったうさこちゃんは、後悔でねむることができません。
いつもと違ううさこちゃんに声をかけるふわ母さん。わけを知って『~なんてわるいことをしたの!~いますぐ おみせに かえしに いきましょう~』と言います。
したことがしたことですから、親が怒るのは当然ですが、ふわ母さんならどんな声、口調で言ったんだろうかと思いました。ブルーナの絵本では、表情は涙や口の大きさ、位置、形でごく簡単に描かれるだけですから、怒りの度合いも自由に想像するばかりです。
しかし、子どもの行動をただす時、より良い言い方や方法はあるはずだと思います。
子どもだから、間違いや失敗はある。原因は何か、何が間違いか、謝り方、繰り返さないためにできることを一緒に考えたり、教えてもらえることが子どもにとっては大事なことです。
うさこちゃんは、もちろんお店にいきたくありません。恥ずかしいからです。『~でも、これは じぶんの したことです。~』とキャラメルを全部返して『~こんなことは もうにどと ぜったいに しません~』と言います。
お店にキャラメルを返しに行く時、ふわ母さんは付き添っていますが、返して謝る場面にはふわ母さんの姿は描かれていませんし、お店の人も描かれていません。
謝罪の場面に一人立っているうさこちゃんの姿は、恥ずかしくても「自分のしたこと」に向き合っているように見えます。
小さな子どもにしてはいけないこと、恥ずかしいこと、自分で向き合うこと、正直さをテーマにした本に初めて出合ったのがこの本でした。ブルーナ作品が多くの人に愛される理由がわかる一冊です。
今回のライフスキルのキーワードは、「自己認識」「効果的コミュニケーション」「対人関係」「意思決定」「問題解決」「感情対処」「ストレス対処」です。
「このアメが欲しい」という欲求を抑えきれず、キャラメルを盗ってしまったうさこちゃん。その日の夜は、安心して眠ることすらできません。「不安」でこころがいっぱいになった様子を見て、異変に気づいて、「どうしたの」「なにかあったの」とふわ母さんが質問することによって、やっとうさこちゃんは、過ちを犯した自分を認識し、過ちを正直に話すことができました。ここで、「おかあさんには嘘をつかずに、正直に話そう」という「意思決定スキル」を正しく使うことができたことがわかります。日頃のお母さんとの信頼関係ができているからこそ、すぐに正直に話すことができたのでしょう。
お母さんは、「あなたがしたことは悪いことだ」と断定しています。その上で、「いますぐ おみせに かえしに いきましょう」ととるべき道をうさこちゃんに教え、お店までいっしょに行きます。これは、大人の大事な役割です。そのお母さんの支えがあって、うさこちゃんは、自分がなすべき行動を見つけ、正しい解決へと向かいはじめるのです。
お店に返しにいくことは、はずかしいし、後悔の気持ちで心はいっぱいになっています。
「逃げ出したい」という気持ちもきっとあったことでしょう。しかし、その自分の感情、気持ちがありながらも、冷静に、いま自分がやるべきことは、「きゃらめるを全部返すこと」、そして「ごめんなさい もうしません」と謝ることだと自己決定をし、実行に移すことができました。ほどよい感情対処、適切なストレス対処を行い、いちばんよい解決方法を使うことができたのです。お母さんの適切な助けをかりて、自分が過ちを犯してしまったという現実を受け入れ、問題解決ができたうさこちゃん。
この後どうなったかは描かれていませんが、みなさんだったらどんな場面を描きますか?
私は、お店の人に許してもらい、悪いストレスが消えて、不安がなくなり、穏やかで晴れやかな気分になって、明るい色の服を着ている,ほんのちょっと大人になったうさこちゃんと、そのそばでうれしそうに我が子を見つめるふわ母さんの姿が目に浮かびました。
*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、
意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス対処スキル 以上10の技術のことです。いずれも 心理・社会的変化に対する適応能力を高めるスキルです。

廣岡逸樹・綾子