☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会(4)
『おかしのくにのうさこちゃん』 ディック・ブルーナ ぶん・え
松岡享子 やく 福音館


前回の「うさこちゃんときゃらめる」の衝動的なうさこちゃんとは打って変わった今月のうさこちゃんです。今回もうさこちゃんは、青い服を着ています。
お粥が食べたくないうさこちゃんは、お菓子、ジュースが食べ放題、飲み放題の「おかしのくに」を想像します。想像はさらに広がり、空からはドロップが降り、庭の敷き石はチョコレート。チョコで汚れた手を服で拭ったり、夜更かししたり、かたずけをしなくても誰からも怒られないのです。思わず「いいなぁ。」と思ってしまうし、想像するだけなら問題はなさそうです。
そこで、うさこちゃんは、はたと考えます。
なんでも自分の好きにできる「~そんなくにが ほんとにいいかしら?
~なまけもののうさぎになってしまう。やっぱり がんばって おかゆを たべよう。 そうしたら、いまのままの、げんきな、ふつうの うさぎで いられるもの。
そのほうが ずっと いい!」
どんなに自分にとって良いことと頭ではわかっていても、それを避けたい、したくな いということはあります。うさこちゃんは、お粥はおいしいし体に良いとわかっている のです。
逆にこれは良くないことと分かっていても、それにとらわれたり依存してしまうこと があります。現在の子どもの抱える問題のネットやゲームへの 依存やいじめの問題が そうです。
とらわれや依存にならない前に身につけたいことは、今、ここで、どんなことが起こっているのか、なにが問題なのかが考えられること、どんなことが起こるか想像してみること、問題解決のアイデアが出せることです。

うさこちゃんは「おかしのくに」という魅力的なことを想像しましたが、その国にいたら自分がどうなるかも想像しました。よくない結果にならないための解決策は、お粥 を食べることに落ち着いたというわけです。「いまのままの、げんきな、ふつうのうさぎ」である自分が良いと思える自己肯定がここにもみえます。
この本では、うさこちゃんしか登場しません。読者は、うさこちゃんの自問自答(自分との対話)を見ているということです。自分との対話の中で、今の自分でいたいというところにたどりつく確かさを感じます。
シンプルをモットーとするブルーナの考えがここにも発揮されていると思います。
今回のライフスキルのキーワードは、自己認識、意思決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情(ここでは、「欲望」=快感のみを追い求める)対処スキルです。
私たちは、時に強い欲望にとらわれてしまうことがあります。「欲望」は「快適に生きようとする根源的な欲求そのもの」ですが、暴走すると自分で制御することができなくなり、それ自体が目的化してしまい、依存症のような自己破壊的行動につながることもあります。自分の「欲望」をコントロールするには、「自己認識力」がほどよく身についているかが大事です。欲望に負けてしまいそうになる弱い自分のことも率直に認め、自分に対する批判的思考、感情(欲望)対処スキルを駆使して、意思決定を行い、自分に取って最良の解決となる「問題解決」を行うことができたうさこちゃん。その最良の問題解決の結論は、あちらの世界(快感に満ちあふれた世界)ではなく、快感も、不快感も共に体験する「日常」,こちらの世界の食生活を続けることだと肯定的に今の自分をまるごと受け入れたのです。
*1:欧米では、お粥はお米で作った「ポリッジ(porridge)」で、「病気のときの食べ物」と言われます、なぜなら温かくて、消化によく、水分がいっぱいだからです。(Okayu is a rice porridge, often called "Sick Food" because it is warm, easy to digest and full of liquid.)オートミールなどをミルクに下して、柔らかくした栄養食です。また、中国や韓国では、毎日食べるものでもあります。ブルーナは、どちらの意味を込めていたのでしょうか?
*2:「感情」について:生まれてすぐの「快・不快」の感情が分化していき、さまざまな感情を人は経験するようになっていくとされています。
*3:ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス対処スキル 以上10の技術のことです。いずれも 心理・社会的変化に対する適応能力を高めるスキルです。
廣岡逸樹・綾子