☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会(5)

   2021年 8月

   『はりねずみのぼうけん』 ディック・ブルーナ ぶん・え 

                       松岡享子  やく 福音館


主人公のはりねずみはあまり馴染みのない動物ですが、最近ではペットとして飼う人もいるようです。

はりねずみのはりこちゃんは、マフラーが買いたくて町にお出かけします。途中で出会った亀さんは、町は車がいっぱいで怖い所、大丈夫かと心配してくれます。はりこちゃんは町は怖い所と知っているけど、マフラーがほしいからと町に向かいます。町についてみると、思っていた以上に車が多くてびっくり。とても怖くなったはりこちゃんは用心してお店へ。ところが、お店の外からたくさんのマフラーが見えると、窓ごしにどれが自分に似合うか目を閉じて想像し始めました。目を閉じていたので、危険に気付かず大きなトラックに跳ね飛ばされてしまったのです。ほしいもの、したいことがあると、そのことに夢中になり、判断を甘くしたりミスをしてしまうものです。大なり小なり誰にでもある体験だと思います。

「めなんて つむらなければ よかったのに」と文中にはあります。なぜ目をつぶったのか、どうしたら良かったかはわかりますよね。

お話の次の展開です。はりこちゃんははりねずみですから、跳ね飛ばされてもボールのように丸くなって転がったので、死なずに済みました。


でもそれを見ていた男の子が、心配して声をかけてくれます。思ったほどひどくないと答えるはりこちゃんの目にはひとつぶの涙。

男の子は、跳ね飛ばされたはりこちゃんをみて、かわいそうに思い、けがをしていないか行って尋ねてみようとつぶやきます。気持ちと行動のつながりが、幼い子どもにも分かりやすく表現されています。けがをしているかどうか尋ねることで、自分の行動すべきことががわかります。


男の子はさらに「きみが すっかり よくなるまで ぼくが めんどうを みてあげるよ。」と言います。はりこちゃんも「ああ、なんて やさしい ぼうやでしょう。 おことばにあまえて いいかしら。」と言います。最終ページで男の子は、「もちろんさ。」と答え、誰かがけがをしていたら助けるのが当たり前、君だってそうするに決まっていると言います。そこでお話はおしまいです。

  私たちは誰でも、失敗することを通して物事が分かったり、自分を成長させることができます。とりわけ子どもはそうです。失敗を恐れずトライできるには大人の支え、仲間の支えが必要です。はりこちゃんも男の子の助けを受け入れたい気持ちを伝えました。男の子の介抱を受けて落ち着いたら、自分に起きた事を振り返る力もでるでしょう。背景の色も男の子との出会いのページは青色(不安)、はりこちゃんが「あまえていかしら」というところは緑色(自然、伝えたいことを伝える色)さらに最終ページは黄色(暖かさ、親しみ)へと変わります。(ブルーナ独自の色の使い方です)

男の子は、はりこちゃんに声をかけ、介抱してあげると言う場面では、はりこちゃんの体を抱いています。はりこちゃんの体の針は、きっと男の子の手は少し痛いはずです。その時、はりこちゃんの目からはひとしずくの涙がこぼれます。次のページを開いたとき、はりこちゃんと男の子は、同じように目を閉じて、ほっとした安心感に包まれたような全く同じ表情をしています。


 傷ついた人と関わることは、時に痛みを伴ないます。ブルーナが、主人公にはりねずみを登場させた理由は、ここにあると考えるのは深読みしすぎでしょうか?

 厳しく怖い現実はどの時代も同じです。コロナ蔓延のまさしく今、世界中で私たちは体験しています。私たちは誰もがはりこちゃんであり、亀さんであり、男の子です。

 今回のライフスキルのキーワードは、自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、意思決定スキル、問題解決スキル、感情対処スキルです。特に重要なのは、「共感性」です。男の子は同じ痛みを感じた時、自他を冷静に区別しながら、なおかつ相手の痛みを癒やすために自ら判断し、けがをしたはりねずみのそばに寄り添い、手をそっと触れる(助ける)という、人として最適な行動をとることができています。この力の基礎となる対人関係スキルは、幼時期から小学校4,5年まで時間をかけてゆっくり育んでおいてほしいと思います。

 それでも、大人になって、金や名誉に目がくらむと、「ひとときの共楽的共感性」は強くなりますが、他者の痛みに対する「共苦的共感性」を失ってしまうことがあります。まして、自分だけが楽しければいい、楽であればいいということしか学ばないで大人になると、少なくても周りの人々が困ってしまいます。喜びも苦しみも共に感じながら、共に歩んでいける人であり続けたいですね。


*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス対処スキル 以上10の技術のことです。いずれも 心理・社会的変化に対する適応能力を高めるスキルです。

                 廣岡逸樹・綾子


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