☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会(6)    

 2021年9月    

『ろってちゃん』 ディック・ブルーナ ぶん・え   松岡享子  やく  福音館

コロナ禍のなか、オリンピック・パラリンピックが行なわれました。開催の賛否は別として、選手やオリンピックという場の凄さには感じ入るところがあります。

パラリンピックについては、障がいに合わせたルールや補装具等の開発の進化がスポーツを楽しみ、記録に挑むことを可能にしていると思います。

さて、障がいがのある子が登場する幼い子ども向けの本に出合うことは、まだまだ少ないですが、『ろってちゃん』では、車いすに乗ったろってちゃんが三人の子どもとボール遊びをします。

学校の校庭でボール遊びをしている「あーは」と双子の「こーすとけーしぇ」。だれが一番高く投げられるかを競っています。そこにろってがやってきます。あーは、ろってを誘いますが、こーすとけーしぇはきっとつまらなくなると思って誘いたくありません。  あーはは二人に「~わからずやね。ろってを いれてあげないなら わたしも あそぶの やめるわ。」と腹をたてます。双子がろってに「ボールをなげてみてよ。」というと、ろってはとても上手で、三人は前よりとても面白く遊べたのでした。そして、三人は「あしたも おいでよ。ぼくたち なかまになろう。」とろってに言います。ろっては「ええ、いいわ。またあした、ばい ばい。」と手を振ります。双子がろってを誘いたくないという場面では、緊張感もありましたが、読後感はすっきりです。

何の躊躇もなくろってを遊びに誘うあーはと、きっと楽しくないと想像した双子たち。初めて会う人のことはよくわかりませんし、かつ障がいがあるならさらに配慮が必要になるでしょう。双子たちのように遊びができるかできないかで考えたら、できない方を想像しがちかもしれません。むしろあーはが双子にひどく腹をたてる姿に「なぜこんなふうに考えられるの?」と感じないでもありません。

しかし、人の能力や考えは想像や憶測ではわかりません。言ってみる、聞いてみる、やってみることも大事です。まずは現実をそのとうりにとらえる力が必要です。

 もし、ろってがボール投げがうまくできないなら、ボール投げではない遊び方やまったくちがう遊びにするなどアイディアを出し合うことで楽しくできるかもしれません。子どもは遊びのなかで工夫や折り合いをつける力(対人力、寛容性、公平さ)をつけていきます。ゲーム機の中の遊びだけでなく実際の遊びを豊かにしたいものです。

NHKの番組で車いすを使用している若者が「縄跳び」を楽しむという場面がありました。「車いすに座っていてどうやって跳ぶの?」と思って見ていました。すると介助者の人が走りながら押す車いす上の若者は、回される長縄の下をうまく通り抜けたのでした。彼にとって初めての「縄跳び」を楽しんでいました。「縄跳び」を跳ぶものとしか考えていませんでしたので、自分の頭の固さを思い知らされたことでした。「縄跳び」は「縄遊び」と考えれば、可能性が広がったということだと思います。

 発想の転換やアイディアで楽しさを広げ、新たなものを生みだすことができる、そのような考えや関係性を作り出していくことが様々な人と共に生きる時に必要だと思います。

この作品の題からすると、ろってが主人公のように感じますが、あーはの存在も重要です。


 自分とは異なるもの(障がい)を持った人と躊躇なく遊びたいと感じ、憶測で拒否しようとする考えに怒りを感じ、それを双子に伝えることができるあーは。この子はどんなことを体験してきている子どもなのかなと思いをめぐらせてみます。ブルーナは妻イレーネ夫人の目にかなった作品でないと世にださなかったそうです。あーはの姿にはイレーネ夫人の姿が重なるようにも思えます。

 今回のライフスキルのキーワードは、10個すべてのライフスキルです。登場人物は、「あーは」と双子の「こーすとけーしぇ」、そして車椅子に乗っている「ろって」。すべてのスキルを発揮しながら、「異なる者」との出会いを喜びと楽しみに変えていく4人の姿に、いつのまにか、私は「不公平さ、不寛容さが目立つ日本の現状」に思いを巡らしていました。行政(入国管理局など)や現内閣には、このブルーナの「ろってちゃん」を読んで、この国に何が必要かを考えて欲しいと強く思います。また、この国の今を生きる私たちは、「不公平」「不寛容」な政治家ではなく、「日本に生きるすべての人々に対し、公平で寛容な政治家」を一人でも多く選び、当選させていきましょう。

 日ごろ説明することの少ない「創造的思考」について話してみたいと思います。「創造的思考」は、発明、発見するための原動力となる「思考」であることは、皆さんも納得されると思います。ニュートンの万有引力の逸話などがわかりやすい例えでしょう。しかし、私は、それだけでなく、自分の頭でしっかりと考えるという行為は「創造的思考」になりうるものだと考えています。日常の中で、ひとりの人の普通の思考が他者の思考とぶつかりあい、そのぶつかったときのエネルギーが、今までになかった、新しくてより豊かな関係性を創り出していくものだと考えています。つまり、「生きた言葉による対話」がなされたとき、だれの中にも「創造的思考」が生まれてくる可能性を秘めていると言えます。

誰の中にもある「普通の思考」が他者の「思考」と交響した時、生まれる「思考」は「創造的思考」の名に値するのだと考えています。

 この作品では、「あーは」だけでなく、双子の「こーすとけーしぇ」、そして「ろってちゃん」もふくめたすべての登場人物が、「創造的思考」というライフスキルを十二分に使っているように、私たちには思えるのです。


*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス対処スキル 以上10の技術のことです。いずれも 心理・社会的変化に対する適応能力を高めるスキルです。


                 廣岡逸樹・綾子


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