☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会(8)

2021年 11月

   『ボリスのやまのぼり』

ディック・ブルーナ さく 

      かどのえいこ  やく 講談社



先月に続きボリスのお話です。訳者は松岡享子さんではなく、角野栄子さん、出版社も違います。名前もカタカナになっています。ちなみに松岡さん、石井桃子さんはうさこちゃん、角野さんはミッフィーちゃんと訳しています。

青空の良い天気、山登りが大好きなボリスが、手ぶらで山に登っています。頂上からのながめは良いし、おひさまも高く昇ってきました。

そこに、リユックを背負ったバーバラが登ってきました。バーバラはボリスのガールフレンドです。ボリスがリユックの中身を聞くと、テントが入っている、あめが降りそうという返事。

「あんなに天気なのに?」ですが、バーバラの言う通り、雲がいっぱい出てきました。

「かえろう」と慌てるボリスに、バーバラは「へいきよう。テントが あるもん。」と言って、急いで二人はテント張り。仲良く山のてっぺんで雨宿りという微笑ましいお話です。

ボリスとバーバラのモデルはブルーナの長男夫婦とのこと。ブルーナも愛妻家で知られていますが、ほのぼのとした家族関係が想像できます。

先月のボリスの姿は地に足のついた感じがありましたが、山登りという自分の好きなこととなると、そうでもない姿も表されています。好きなことや慣れたことには、ついうっかりや過信が起こるものですね。自然の中での事故など、悲しいニュースを耳にします。

 自然はたくさんの恵みをもたらしてくれますが、人間には知る事のできない脅威の部分がたくさんあります。謙虚に注意深くあることが大事です。謙虚であるためには、自分の本当の力、等身大の自分を知っていることが必要ではないでしょうか。そしてそれは、人との関係の中で養われるものだと思います。

 バーバラはボリスが手ぶらで山登りに行く姿を見かけて、追いかけてきたのでしょうか? それとも偶然でしょうか?


 いずれにしても、ボリスはバーバラに助けられました。私たちはこうして助けたり助けられたりしながら、人との関係を創り、自分を知ることができるのだと思います。

雨宿りの場面でお話は終わっていますが、きっとボリスは自分の行動を振り返ったり、バーバラのことを更に理解したことでしょう。

先月の内容で、キリスト教愛真高校のことにふれましたが、今月の本にも、この高校の在り方に思いをいたすことになりました。

3年間の学業を終えた生徒は、卒業式の後スピーチをします。一人一人の三年間の思い、体験が個性豊かに語られます。共通して語られるのは、自然に囲まれ、自然の恵みをいただき、自然に働きかける生活の中で自分を見つめる三年間であり、そのことの苦しさ、自分の小ささに気づく体験、自分の周りにいる生徒、先生から大いに助けられていたという実感、家族への思い、様々なことへの感謝です。そして、そうしたことの先にある自分の未来への思いです。卒業スピーチの原稿は、「学校の宝」として、引き継がれるということでした。一人一人の3年間が大切にされている実感があります。

情報が溢れかえる現在。小さな機械の中に情報も人間関係も詰め込まれています。その中ではいじめや誹謗中傷、犯罪、自殺幇助までもが存在しています。現実体験が薄ければ言葉の洪水の中で押し流され、混乱を招くのではないかと危惧します。上手に活用するには、他者とのほどよい関係性や実体験があることが必要ではないでしょうか。


多少くたびれているおっさんである私(逸樹)は、「陽もまだ登っていない時間の登山は、テントだけでなく、ライトも持って行ったほうがいいよ。」という突っ込みを入れたくなりました。(どうでもいいことなのですが。)

 私も、中学生のころ、昇る朝陽が見たくて、「今から晴れる。」という予報を頼りに小高い山(「千畳敷」、標高333m)にいくどとなく登りました。暗い夜の静寂も好きでしたが、昇る朝陽とともに明るくなっていく景色の移り変わりは、「明けない夜はない」という言葉そのものの実体験でした。

 ボリスが雨が降ることなんて考えずに、今空が晴れているのだからと何も持たずに、山登りをしてしまうボリスの気持ちもわかるような気がします。

 特別な目的がない限り、雨が降り出す山に、ただ登るということは普通しないように思います。バーバラが自分の思いだけで、やがて雨が降ってくるだろう山に登るというのは考えにくい。私は、やはりバーバラがボリスのためにテントを持って登ってきたのだと思います。

 さて、「ライフスキル」の説明に移ります。

 ボリスは、10個のライフスキルというより、自然環境の中でより安全に生きていく、しいて言えば「サバイバルスキル」が不十分であったと思います。「山に登るなら、急な自然の変化に対応できる装備を持っていく」という常識を忘れてしまうほど、その時、「登りたいという衝動」が強くなったのでしょう。

 そのボリスの特性のことをよく知り、冷静な判断ができるバーバラは、ボリスの行動を否定したり非難するのではなく、登れば、山頂で雨が降ってくるであろうというストレスに的確に対処するために、自分がテントを持ってボリスを追いかけるという行動を実行に移し(意思決定スキル)、雨が降ってくる前にテントを張ってその中に二人で入るという「問題解決スキル」を使ったと言えるでしょう。ボリスへの共感性スキル、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキルも十二分に発揮されています。


*10月の内容でくまのぼりすの本は少ないと記しました。ボリスおよびバーバラの本は、「デイック・ブルーナのすべて 改訂版」講談社 2018年2月発行 によれば13冊あります。そのうち4冊は未邦訳となっています。

*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス対処スキル 以上10の技術のことです。いずれも 心理・社会的変化に対する適応能力を高めるスキルです。


                  廣岡逸樹・綾子


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