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☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会 (15)    

                            2022年6月

     『とうさんはタツノオトシゴ 』 エリック・カール


エリック・カールといえば代表作は、「はらぺこあおむし」です。穴あきの仕掛けも出版当時(1976年)は斬新なものだったそうです。途中で長さの違うページがあり、さらに穴あきという製本は難しく、日本の製本技術の高さが買われ、偕成社が出版することになったのだとか。 

しかし、エリック作品の特徴は何といっても、色彩の美しさです。自分で作った様々な色紙を切り抜いてはり合わせているのだそうです。

 20年以上前に「はらぺこあおむし」を数人で手分けして作ったことがありました。色彩の多様さに真似ることが難しく、どうやって描かれているのかと思っていましたが、数年前にエリックが作成している場面がテレビで紹介され、なるほどと思いました。

さて「とうさんはタツノオトシゴ」には、タツノオトシゴを始め、育メンの魚がいくつも登場します。メスがオスの魚の体の一部に卵を生みつけたり、巣に卵を生みつけた後、ふ化まで見守るものなど様々です。

 タツノオトシゴの場合はオスの育児嚢に卵が生みつけられます。図鑑で調べると、まるでカンガルーのようなポケットになっています。

この絵本には、海藻や岩などが印刷された透明シートが4か所あり、次のページにいる魚が隠れているように見える仕掛けになっています。タツノオトシゴのとうさんが泳いで行く先に様々な魚が隠れているわけですが、読み手もタツノオトシゴのとうさんと一緒に海の中を進んでいるいるような気持ちになります。

タツノオトシゴのとうさんは別の育メンの魚に会うたびに励ましたり、ほめたり、幸せを願ったりします。育児の大変さと喜びを分かち合っているようです。最後にはタツノオトシゴのとうさんのお腹から子どもたちが出てきます。一匹の子どもがまたお腹に戻ろうとしますが「だめ だめ。とうさんは きみが だいすきだけど きみは もう りっぱな タツノオトシゴなんだ。」と言います。子別れと自立がこの言葉に表現されています。

育メンという言葉もすっかり定着しました。スウィーツ男子などという言葉も聞きますし、男性も眉を整え、おしゃれになりました。

 そして性のありかたも多様にあることが認識され、社会の制度を変えようとしています。スポーツや仕事もかつては男性だけ女性だけだったものが両性でされるように変わったものもあります。(女子サッカー 保育士など)

動物の生態を知ることは、人間や社会のありかたを知る手がかりです。エリックの美しい絵本から子育ての多様な在り方を楽しく知ることができます。登場する魚をさらに調べたりしても楽しいと思います。

 社会は多様なありかたの集まりです。あるがままを知り、認めることは柔軟な発想の素だと思います。

 今回のライフスキルの説明は、やや強引に、魚の子育てを擬人化して書いてみます。

(子どもと大人の違いってなに?)

 私たちは、守られ、育てられる(広く教育といってもよいでしょう)存在から、次の世代(子ども)を産み、守り、育てる存在となることが基本だと考えています。このことは、ヒトだけでなく、ほとんどの生物に当てはまっています。

私(逸樹)は、いろんな育メンの魚がいるということもこの絵本で初めて知りました。子育ての仕方もいろいろあるんだなと実感します。私は、絵本を読んで、ほんのちょっとワクワクしました。

 (「ライフスキル」ってなに?)

 子どもが大人になるまでに、完璧でなくてもほどよく身につけておいて欲しい「生きる技術」として、1993年にWHOが定めたということは、先に述べました。

 10個のスキルのうちの一つ、「意思決定スキル」について考えてみます。

 おとうさんのおなかのポケットから生れ出たほとんどのタツノオトシゴは、当然のように、迷いなく自分の力で生き、産み育てるおとなになるために、豊かな恵みに加え、危険もある大海に飛び出しました。しかし、いっぴきだけ、「もっと、安全なおとうさんのおなかの中にいたい」という思いで、ポケットの中に帰ろうとする場面があります。その時、おとうさんは、「(きみのことは)だいすきだけど、(きみはぼくのポケットの中で大人になるためのライフスキルはすべてもっている)りっぱなタツノオトシゴ(大人)なんだ」と最後に言います。

 「だいすきだけど」の一言は大事ですね。自分のおなかのポケットの中で育ててきて、同じ時間を身近に過ごしてきたかけがえのない喜びと愛情がその一言に凝集されています。そのあとの、「りっぱなタツノオトシゴなんだ」の一言にも、子どもの生きる力を信頼しているちちおやの深い愛情が込められているように思います。

 旅立ちに不安はつきものですが、ちちおやと子ども、それぞれの意思決定スキルが交響しあって、命をつないでいくことの素晴らしさが描かれているように感じました。

 絵本はそこで終わっています。さて、このあと、この子どもはどのように生きていくのでしょうか?

 絵本を読んで、いろいろ想像してみてください。


*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス対処スキル 以上10の技術のことです。いずれも 心理・社会的変化に対する適応能力を高めるスキルです。

廣岡綾子・逸樹   


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