☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会 (16)

2022年7月

『青いかいじゅうと赤いかいじゅう』  デイビッド・マッキー作

                    きたざわ きょうこ文   アーニ出版  


 作者は「ぞうのエルマー」シリーズ他、物事の本質をついた作品で知られていますが、残念ながら今年4月に亡くなられました。きたざわきょうこさんは、教育評論家であり1965年から性教育を中心に活動をされ、子どもの育ち、男女、社会、教育のありかたに多くの問題提起と実践をされています。アーニ出版は関連の本や教材を出版しています。

まず作者の紹介をしたところで、今月ご紹介するこの本がたくさんの要素を含んでいそうだと想像されたことと思います。

ストーリーはシンプルです。山を隔てて青いかいじゅうと赤いかいじゅうが暮らしています。どちらも一人ぼっちなので友達が欲しいのです。山にはそれぞれの側に穴が一つあり、その穴から話ができるので、互いの姿形を伝えあってみました。

 ある日のこと、青いかいじゅうは美しい夕陽をみながら「きみといっしょにみたいなあ、、、ああ日がくれていく」というと赤かいじゅうは「ばかねえ、”よるがくる”っていうほうが ただしいのよ。」と言い、山があってあうことができないのにいっしょにみたいという考えを否定します。当然のようにお互い怒り心頭。眠れぬ夜を過ごします。

 次の日は更にヒートアップ。赤いかいじゅうは石を青いかいじゅうのいる方へ投げつけます。青いかいじゅうもお返しに石を投げつけると、山のてっぺんが崩れました。これを機に二人は協力して山を崩します。

 何日もかかってとうとう二人は会うことができ、悪口を言い合ったことを恥ずかしく思い、「日がくれる」「夜がくる」のどちらもが正しいことを理解したのでした。そして二人でいることが楽しいと感じるのでした。

二人ひとがいれば、考えが違うことはだれもが認めるところです。そして、お互いを分かり合うことの難しさを感じます。しかし、人間は社会的存在ですから、努力して折り合い協力していく他はありません。その為にライフスキルを身につける必要があるということです。

相手の理解は外見だけでは不十分です、何を感じ、何をどう考え、行動するのかを知らなければなりません。分からないから、相手をよく見て、その声に耳を傾け、困ったことがあれば、お互いにとってより良い方法を試してみることが大事になります。

この作品の中の転機は、赤いかいじゅうが怒って石を投げたら山が崩れることが分かったという偶然の出来事でした。赤いかいじゅうの怒りのもとは相手が自分を理解してくれない、自分も口下手で気持ちをうまく伝えられず、酷い言い方をした後悔からでした。 怒りはごく自然に備わった大事な感情ですが、うまくコントロールしてつきあっていく必要があることから、今ではアンガーマネジメントという言葉もよく知られるようになりました。この作品が出版された1989年ごろは、まだ怒りをコントロールするという意識は薄かったのではないかと思われます。

 この作品の中では、偶然の設定ではありますが、怒りが破壊だけでなくより良い事も生み出すことを示してもいます。山を崩して二人が会えるかもしれないことに気づき、協力し始めたのです。ただ怒りに翻弄されてやっつけたいだけで石を投げ合っていたなら、気づかなかったかもしれません。しかし、もともとは友達がほしい二人でした。「あっ、くずれた!」「山がくずれたぞ!」と二ひきが、ほとんどどうじに叫んだ時、友達になりたい、会いたい気持ちがよみがえったのではないかと思います。 表紙の題字は青色と赤色のグラデーションで描かれています。表紙の二匹の位置は最終ページでは入れ替わっています。こうした表現のしかたについても話し合うと面白いと思います。北沢さんのあとがきも参考にしながら、色々な方向から話題がひろがる絵本です。

 この本の中で、主に描かれているのは、「効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、感情対処スキル」の3つです。もちろん、相手への共感性スキル、二人が協力することによる効果的な問題解決スキルなども表現されています。

 二人のかいじゅうの思いは、環境によって、当然のように表現が変わります。そのことを表現することで、二人の溝は深まり、赤いかいじゅうの「ばかねえ」の一言が、青いかいじゅうの怒りを買います。その後、二人の怒りの感情は、相互に刺激しあってどんどん大きくなり、言葉の暴力、そして、石を投げたり、蹴り上げたりという具体的な暴力へと変わっていきます。その結果、二人を隔てていた山を粉々に壊すことになります。山が壊れ、相手が見え始めたとき、相手や相手の環境を理解し、相手を傷つけずに、山を壊すという協力関係へと変わっていきました。結果オーライですが、怒りに任せて投げた石が、直接相手にあたり大怪我でもしようものなら、取り返しのつかない事態につながっていたかもしれません。私たちは、だれでも間違いをしますが、その間違いが取り返しのつかない結果を生まないように、怒り(感情)をほどよくコントロールする力を身につける必要があります。まず、怒りの感情を沈めて(落ち着いて)、相手を理解することから始まるのでしょう。

 「平和のためだ」と声高にわめきながら戦争を始めようとする闇の力が大きくなっている今日、世界各国の多くのトップに読み聞かせたい絵本だと思いました。


*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス対処スキル 以上10の技術のことです。いずれも 心理・社会的変化に対する適応能力を高めるスキルです。

(効果的コミュニケーションスキルがほどよく身につくと)

・効果的で適切な言語的・非言語的コミュニケーションができる。

・積極的自己表現(アサーティブネス)・交渉が可能になる。

・断ることができるようになる。

・内気さを克服できる。

・人の話をよく聞くようになる。

( 対人関係スキルがほどよく身につくと)

・協力しあう。

・信頼して共同作業ができる。

・適切な対人行動のための限界を知る。

・友達をつくる。

・対人関係をつくったり、終了したりできる。

・家族と建設的な関係を作れる。

              廣岡綾子・逸樹 

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