☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会 (19)    

                             2022年 11月

       『こんなかお、できる?』 

              ウイリアム・コール・トミー・ウンゲラー絵 好学社


表紙はベッドに入って少し微笑んでいるかのような女の子フランシスの絵です。実はこの子は寝るのが嫌で、親が寝かせるのに手こずっている子なのです。とは言え7時半ごろから寝る準備をさせられるのですから幼い子どもの設定のようです。

 パパはなんとか寝てもらおうと「こんなかおできる?」のゲームを考えました。フランシスは寝る準備をしながら、パパの言う色々な表情をやってみます。そして8時には自分の部屋に行きベッドに入ります。




 ベッドに入って最初にしたのは、「かぜをひいちゃったって かお」フランシスがとても弱弱しく、どんよりした顔をしてみせたら、あまりによくできていて、見ていたパパも気分がどんより・・・・パパも大変です。そのあとパパは9つもの表情をするように言います。9つ目は「はー くたびれたのかお」それをしたあとパパはこれでおしまいと言いますが、さすがのフランシス「あと 1かい!」とおねだりします。

パパも心得たもの「そうくると おもった~ 」と言うとおやすみなさいのキスをしてっていう顔をさせます。もちろんフランシスの顔は「よくできました。」パパはフランシスにキスをして「~もう かおの あそびは いいから、ゆっくり おやすみ」と部屋の灯りを消しました。ベッドサイドの時計は9時を指していますから、 一時間半もこの顔遊びをしたわけです。各ページに描かれているのはフランシスと部屋の状況だけで、パパとママの姿は描かれていません。壁にはパパがさせる表情と関連した絵があり、フランシスのしてみせる表情が一層よくわかるようになっています。そして「よくできました!」のことば。

娘を寝かせるために四苦八苦しているパパとママの姿は、物語が始まる前の中表紙の手前のページで腕組みをした道化師のような恰好で描かれています。それも二人で一つの帽子を被っています。パパは厳しい顔、ママはやれやれといった気持ちの顔に見えます。

 パパはフランシスの部屋の灯りを消したところでシルエットとして描かれ、表情はわかりません。きっと、寝てくれて良かった、でも疲れた、楽しかった、、、、いろいろな思いの表情でしょう、、、、。

最後のページは、暗い窓に大きな月とネズミ、と「よくできました!」の言葉。この「よくできました。」はママがパパに言っているように思えます。

小学校のブッククラブ(*)でこの本を子どもたちと読んでみました。子どもたちはすぐにフランシスのように一緒に顔遊びをしはじめ、最後の言葉は「あー顔が疲れた~。」でした。フランシスが疲れて素直に眠るはずですね。

子どもはふざけて変顔をすることがありますが、フランシスのように人の求めに応じて表情を作ることはやはり大変なことです。私たちもここ3年ほどはコロナのためマスク生活で表情筋を動かす機会も激減。表情から相手の人の感情や状況を読み取ることも難しく、顔の特徴からの情報が少ないため初対面の人を覚えることも難しくなりました。

社会性を育む土台は相手の表情や状況の理解です。コロナ下での生活はそのことの大事さを改めて教えてくれたように思います。

中表紙と裏表紙はフランシスが鏡に向かって、指の間から自分の顔を覗いている絵です。

パパとの顔遊びから表情を作ってみることに興味がわいたのでしょうか?

 自分の日常の無意識の表情を見ることはできません。鏡を通して見る自分は無意識の表情ではありえませんが、時には表情筋の運動もかねて鏡をみながら、いろんな表情をして見るのも良いかもしれません。



今回は、主に自己認識、共感性について考えてみます。

 「感情(喜怒哀楽+・・・)」がもっとも現れやすいのが顔の表情ですね。表情筋は20数個あるそうです。その表情筋の複雑な動きによって、喜怒哀楽の基本感情だけでなく

さまざまな微妙な感情を現すことができるようになります。その筋肉が収縮するとそれに応じて皮膚が微妙に動くため、喜怒哀楽が顔の表情となって表出されるわけです。

この絵本では、なかなか寝ないフランシスを寝かしつけるために、父親が表情を作るゲームを提案します。 「まず、おこった かお」「うれしくて しあわせで、 1日中 うたって おどっていたーい て かお」などの言葉(外からの刺激)によって、フランシスは、その意味を理解し、身体変化(主に表情筋肉の収縮と皮膚の動き)を的確に行う」という「感情を表すゲーム」を寝る前にやることになったわけです。

 「あと1回!」というフランシスの要求を、パパはすぐに理解(共感)して、「そうくるとおもった。・・・」と言います。フランシスのことを日頃からよく知っているパパならではの理解(対人関係スキル)だと思います。まさに、「たいへん よく できました!」

 余談ですが、この絵本を読んで、私は、大学一年生の時の心理学の講義ででてきた「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」という古典的な心理学説を思い出しました、ジェームズ・ランゲ説(*)といって情動(=感情)と身体的変化に関する一つの考え方です。その正否はともかく、ゲームとして表情筋と皮膚を動かしてみると、自分の感情に気づき(自己認識)、相手に対する共感性を養うのにいいと思います。家族で、あるいは友だちとゲームとしてやってみてはいかがでしょうか。みなさんも、この絵本を読みながら、表情筋と皮膚を動か(行動)してみてください。

*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス対処スキル 以上10の技術のことです。WHOが1993年に「おとなになるまでに、身に着けてほしいスキル」として提唱しました。


*ブッククラブ:綾子が20年近く続けている地元の小学校での読み聞かせに加え、2021年から始めた活動。月一回(4月8月除く)昼休み、一冊の絵本を子ども達と話合ったり、絵を読み解いたり、自分の体験を話したりと双方向でのやり取りをする読み方です。子どもからリクエストされた本も使います。参加は自由。

吉田新一郎著「読書がさらに楽しくなるブッククラブ」新評論、三森ゆりか著「絵本で育てる情報分析力 論理的に考える力を引き出す」一声社、「フィンランド国語教科書」経済界などを参考に実施しています。


*表情筋:ヒトの顔面に発達している筋。顔面を構成する筋には顔面筋とそしゃく(咀嚼)筋とがあるが、顔面筋の収縮運動が複雑な顔面の表情をつくるので、顔面筋のことを表情筋とよぶ。表情筋は顔面の骨の表面や筋膜からおこり、顔面の皮膚につく(このような筋を皮筋とよぶ)。表情筋は頭皮の筋、耳介(じかい)周囲の筋、眼瞼裂(がんけんれつ)周囲の筋、鼻の筋、口裂周囲の筋などに分類され、総計で二十数個となる。小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)


*ジェームズ・ランゲ説《James-Lange theory》:アメリカの心理学者ジェームズ(W.James)とデンマークの心理学者ランゲ(C.Lange)とによって、1884~1885年の同じころ唱えられた情動の本質についての説。刺激→情動→身体変化ではなく、刺激→身体変化→情動という道筋を考えたもの。「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」という表現で象徴されている。

廣岡綾子・逸樹   

             




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