☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会 (21)
2023年 1月
『なにも もたない くまの王さま』
エリック・ファン・オスとエレ・ファン・リースハウト文
パウラ・ヘリッツヘン 絵
ソニー・マガジンズ


図書館で題名に惹かれ借りました。
物語は見返しから直ぐに始まりますが、くまの王様の実情がよくわかります。次のページでは金ぴかの馬車にわずかな荷物を乗せ、自ら手綱を握り疾走して、お城から離れていくくまの王様の姿。ここまで題名しかないのに、かなりのことが想像できます。絵本のなせるところです。
夕方、小さな部屋にたどり着いた王様。自由な生活の始まりです。王様は自分で着替え、食べものを買いに行き、大切なペットのウサギと一鉢のすみれの世話をします。テラスに出て風を感じたり、ゆっくり息をしたり、街の音に耳を傾けたり、、、 自分に必要が無いものを次々に手放して行きます。ついには王であることも「くにを しっかりと おさめて」と言いに来た大臣に「あなたがやって」と王冠とガウンをわたしてしまいます。
お妃もやって来たので「ここで暮らそう」と誘いますが、こんな何もないところではむりと帰ってしまいます。
何もない王様を周りにいる動物たちが嘲笑います。しかし、王様は「じぶんの すきなものが あれば、あとは なんにも いらないんだよ!」と、通りじゅうにひびく声で笑います。これを聞いて動物たちは自分を恥ずかしく思います。またお妃も思い直してわずかな荷物を持ってやってきました。「わたしあなたと いっしょに くらすわ。あとは なんにも いらない!」めでたしめでたしです。
この作品の作者は三人ともオランダ在住です。オランダでは「自分らしさの追及が幸福につながる」とされ「自分で自分の人生を決められることが幸福を感じる為に大切」と考えられる社会なのだそうです。この国の幸福度が高い理由がよくわかります。
この絵本は正しくこの国の考えを表し、子どもたちにわかりやすく伝えようとしているのだと思います。
日本の子どもたちの生きづらさは、国連からもずっと指摘され続けており、自分らしさの追及からはほど遠い感じです。しかし、この本をブッククラブで取り上げたときは、王様は仕事がたいへんだったのねとか、自分も宿題が大変、自分は勉強はたのしいよなど色々話してくれました。一冊の絵本をもとに自由に話をすることを通じて、その子らしさが感じられます。短い時間ですが、このような体験を重ねる中で自分や相手への発見を増やし、認め合うことになるといいなと思います。
この本の中で気になる人物がいます。王様から王様役をもらった豚とおぼしき動物。王様は熊でしたから、まとわされたガウンは大きすぎて、引きずりながら帰っていくのです。王様役をまかされて驚いたものの、背筋をのばし、うれしそうなかおで、たちさりました。とあるので、まんざらでもなかったのか、でもきっと大変だろうなと思いました。しかし、この国では自分に合わないと思えば、くまの王様のように誰かにゆずる自由があるさ!と心配は無用、、、ですね。
WHOが大人になるまでに獲得して欲しいスキルと提唱した10個のライフスキル。何のために提唱したのだろうと考えることがあります。子どもが、自由に幸福を実現していく力を身につけるための具体的なスキルとして提唱したのだと私は考えています。
身につけた10個のライフスキル(*)をまあまあ、あるいはほどよく使うことができるようになると、私たちは主体的に自らの幸せを追求しつづけ、それを実現できるのだと考えています。挫折することがむしろ多い世の中でも、諦めずに希望を持ち続けて生きていくことができるのだと思います。また、自由に幸福を追求することは、日本国憲法第13条で保障されている国民一人一人の権利でもあります。
前置きが長くなりました。この絵本の中のくまの王さまやその関係者(くまの王妃、ぶたのえらい大臣、友達のうさぎなど)に話を戻しましょう。
王さまという地位にいると、「すきなことがなんにもできない」と王さまがお城を飛び出すところからこの物語は始まります。召使がおらず、なんでも自分でする生活は、「ああ、いいきぶん!」
「自由」であることが本当に気持ち良いことであると感じた瞬間が表現されています。
「自分ができることを主体的に自分の力でやる。」そのことにこそ、「自由」があり、「幸福」があると感じたのです。
「自由とはなにか」「幸福とはなにか」ということを改めて考えています。今までに獲得した「ライフスキル」を使いながら、「この国が抱える問題」を大切な仲間と共にひとつひとつ解決していきたいと強く思います。残された時間はわずかですが、子どもたち、孫たちを信頼して、自分ができる精一杯のことをやっていきます。
この絵本を読んで、2010年3月から2015年2月までウルグアイの第40代大統領を務めた""世界でもっとも貧しい大統領"ホセ・ムシカさんのスピーチを思い出しました。2012年のリオ会議(地球サミット)で行ったものです。
『無限の消費と発展を求める社会は、人々を、地球を疲弊させる。発展は幸福のためになされなければならない。』
私たちは、今このような国、地方議員をひとりでも多く当選させようと活動を続けています。私たち一人一人の力は小さいけれど、きっと実を結ぶと信じています。
*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、
意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス
対処スキル 以上10の技術のことです。WHOが1993年に「おとなになるまでに、
身に着けてほしいスキル」として提唱しました。
廣岡綾子・逸樹