☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会 (22)
2023年 2月
『おこってるんだからね』
川之上英子 川之上 健 作
発行者 社団法人 生命保険協会


この作品は発行者の「第3回 家族のきずな絵本コンテスト」での大賞受賞作品で、非売品として各地の図書館に寄贈されたもののようです。(2011年3月18日第1刷)
表紙からは怒りのオーラが・・・題字も怒っています。両親と姉弟の家族の1日が描かれていますが、お父さんが息子に腹をたてたことから、家族全員に怒りが広がります。
果ては、飼っている猫までもとばっちりが・・・。夜、もう寝る頃になってもまだみんな怒っていますが、「・・・どうしてだったかは わすれちゃったけどさ」との文言。
最後のページで、父と息子が同系色のパジャマを着て、同じ布団で重なりあって寝ている姿にやれやれと思わされました。このような事は、多くの家庭にあるあるな状況かもしれません。
折角の休日が台無しになったきっかけは、お父さんが遊んでいる息子に何か怒ったことからでした。学習机の上にはランドセルが置かれたままですから、「宿題はしたのか」とか「遊んでばかりじゃダメだぞ」とか声をかけたのでしょう。
お父さんから息子、息子から姉、姉から母親、母親から父親と怒りは連鎖しますが、その都度怒りの理由は、絵からのみ読者が考えるようになっています。文章がなくてもその場でどんなことが話されているかは容易に想像ができます。
しかし、寝るまで家族全員が怒りを抱えているというのはしんどいなぁと思います。
裏表紙は白いコップに家族全員の歯ブラシが入っている絵です。寝る前には、なんで怒っていたのかもわすれちゃったのですから、起きた時にはリセットされたという事でしょうか?
家族はこうした事を繰り返しながら(もちろん楽しいこともですが)関係(きずな)を作っていくということなのかな?と思いました。
この本は、保育園で私が行っている「セカンドステップ」のレッスンで、怒りの理解(怒りの表情の読み取りや怒りの理由を考える)のために子どもたちと読みました。※
怒りは誰もがもつ自然な感情ですが、うまくコントロールする必要があるということで、「アンガーマネージメント」と言う言葉も知られるようになり、その解説的な絵本も出版されています。
絵本は単にお話を楽しむだけでなく、怒りのような問題を取り上げる時も有用です。
親子で「怒る」ということについて話合ったり、怒っている気持ちをどう相手に伝えるかなど一緒に考えてみてはいかがでしょうか。さらに必要に応じてアンガーマネジメントの絵本なども参考にされると良いと思います。
怒りはマイナスの作用ばかりではありません。より良い社会や関係を作るためには怒るべき時は怒ることが必要です。大人も子どもも「怒り」について学ぶ必要があると思います。
今回のメインのライフスキルは、「感情のコントロール」その中でも「怒り」という感情を扱っています。お父さんの「怒り」は、絵から想像することはできますが、言語化されていません。その言語化されない「怒り」だけがぼくに伝わり、姉、母、そしてまた父親に返っていきます。それぞれの「怒り」は、それぞれの日常の行動の中で、外に出て、ほんの少し弱まりますが、なくなることはなかったようです。寝るまで持ち越しです。多くの「怒り」などさまざまな感情は、質の良い睡眠の中で、過去の体験(無意識化)となり、感情のバランスは次の朝リセットされます。そうやって、私たちは、まあまあ心穏やかに日常を過ごしていきます。
しかし、長い人生の中では、外のものや自分自身を破壊しかねない「強く、継続した怒り」を経験することも何度かあります。そんな時は、一人で抱え込まないで、まず信頼できる他者に話してみる(言語化する)ことをお勧めします。メタファーとしては、「海に向かってバカヤローと叫ぶ」もありですが・・・。何より、予防的に「怒りのコントロールの方法」を子どものころから体験しておくとよいと思います。「セカンドステップ」は、幼児期から高校生まで継続してできるトレーニング方法としてとてもよいものです。
※「セカンドステップ」は、アメリカのCommittee for Children によって開発されたソーシャルスキルトレーニングです。このプログラムの中では、怒りの感情について学び、怒ったときの体の変化や落ち着く方法などをレッスンします。
*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、
意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス
対処スキル 以上10の技術のことです。WHOが1993年に「おとなになるまでに、
身に着けてほしいスキル」として提唱しました。
廣岡綾子・逸樹