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☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会 (23)

更新日:4月27日

                   2023年 3月

『Мottainai Grandma もったいないばあさん対訳版』

                 真珠まりこ作   講談社

  地元の小学校で、子どもからのリクエスト本として読んだ本です。

「もったいないばあさん」が出版されてから約20年になります。この間この対訳版を含め何冊かのシリーズ本が出版されています。

 作者が自分の子どもから「もったいないってどういう意味?」と問われたことから「もったいないばあさん」の本が生まれたとのことです。一時「もったいない」という言葉はブームのような状況であったと記憶しています。背景にはケニアのノーベル平和賞受賞者ワンガリー・マータイさんが、2005年日本に来訪し「もったいない」という考え方に共感し、世界に「もったいないキャンペーン」の活動をされたことがあると思います。

マータイさんは自国の男性社会のなかで学者となり、環境保護活動として「グリーンベルト運動」を立ち上げ、木を植える活動とともに民主化や女性の権利獲得に務め、国会議員にもなりました。

「もったいないばあさん」の対訳版が出版されたのも、このような経緯によるものと思われます。「もったいない」はその物の価値が十分に生かされていない、あるいは生かされないまま廃棄されるなどの状況のことであり、作ってくれた人や物への感謝も含まれます。今ではSDGs(持続可能な開発目標)という言葉に繋がっていくと考えてもよいのではないでしょうか。

さて今月の本の最初の場面は、男の子の食事の場面です。食器には食べ残しがあり、顔にご飯粒がついたままなのに、手には車のおもちゃが握られています。食事がきちんと終わっていない感ありありです。そこへ現れる「もったいないばあさん」。食べ残しをさらえて、挙句に男の子の顔についたご飯粒までぺろぺろとなめてしまいます。突然現れて、顔をなめまわすなんて、まるで妖怪のようです。聞いていた子どもたちも引いていました。

 読んでいた私も最初は「ぎょえ~」でした。しかし、作者にすれば、このくらいのインパクトが必要と考えられたのでしょう。

この後は、歯磨きの時の水の出しっぱなし、まだ使える紙を丸めてポイ、、、。などなどの場面。丸めた紙は広げてテープで貼り合わせて、色を塗って怪獣スーツに作り変え、短くなった七色の色鉛筆は集めてテープで巻いて虹色鉛筆に、ミカンの皮は干して入浴剤に、夜になったら早く寝る。身近なもったいない事とその対応策が展開されます。

少し気をつけたり、工夫したり、知らなかったことも教えてもらえばもったいないは減らせるし、もったいないを意識するとこれまでになかった可能性やアイディアが生まれます。こうしたことは問題解決力や創造的思考につながるのではないでしょうか?

今の社会では、身の回りの物のほとんどがどのように作られているか、原料の姿さえ分からない事も多いです。そして一つの物が世界中の物、事に繋がっています。自分が手にしている物を通じて世界へと目を向けることができ、新たな発見や学びが生まれる可能性もあります。こうしたチャンスを活かさないのは「もったいない」ですね。

 もったいないばあさんのシリーズに『もったいないばあさんと考えよう世界のこと』(講談社)もあります。

 「もったいない」精神は、持続可能な地球環境開発(人としての地球への関わり)の基本となる考え方です。日本では、室町時代に描かれた「百鬼夜行」に登場する「九十九神」の姿に「もったいない精神」が描かれているという説があります。「もったいない」を切り口に、日本の歴史を遡ってみるのも面白いかもしれません。

一方今の日本に目を移すと、フードロス問題、海洋プラスチック問題など「もったいない精神は今どこへ?」と思うくらい、私たちの加害者性に直面して、少し暗い気持ちになります。もちろん、その解決が困難とも思える難問に世界規模で取り組みが始まっていますが、「専門家にお任せするしかない、私たちはただ見ているだけ」という気分にもなりがちです。しかし、私たち大人が既に獲得している、10個のライフスキルをフルに使いながら、何とか未来につなげたい。SDGSの17の開発目標を道しるべに、「今、ここ」を歩んでいくことは私たちの責務だと思います。

 私たち大人が犯した過ち(大量生産・大量消費)を心から反省し、「創造的思考」、「問題解決スキル」を駆使した行動をローカルな現場で行動を起こしながら、未来の子どもたちにバトンを渡したいものです。

 私たちには二人の孫がいます。上の子は、4月から新小1年生。この本を読んで、じーじやばーばも、「自分の過ちを反省して、よりよい世界を創るために、精一杯ガンバっているよ」と、彼女らともしっかり対話しながら残りの人生を歩んでいきたいと思いました。


*持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。


*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、

意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス

対処スキル 以上10の技術のことです。WHOが1993年に「おとなになるまでに、身に着けてほしいスキル」として提唱しました。

廣岡綾子・逸樹



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