☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会 (24)
2023年 4月
『おてて たっち』
武内祐人・さく くもん出版


題がおてて~とあかちゃん言葉になっていますので、幼児向け絵本です。
コロナ感染予防のために身体接触はおろか、間隔を保つことが求められたここ数年は、よその子どもさんにタッチすることも我慢の日々でもどかしかったと感じています。
スキンシップは大人子どもに関わらず、生きていく上で大事なことであることをコロナ問題を通じて改めて感じられた方も多いことでしょう。
表紙の親子3人の姿には幸せに満ちた様子が感じられます。お父さんと娘がおててタッチをするのをお母さんが娘の背中を押して(タッチして)支えている、あるいは娘を通じてタッチに参加しているかのようです。お母さんと娘は同系色の服を着て、同じ花の髪飾りをつけ、仲の良い関係を表しているようです。子どもが大人の真似をしたがる姿かもしれませんね。
始めにでてくるのは狐と熊(獣同士・同類)ですが、大きいものと小さいもののおててタッチです。二番目は蟻とモグラ(虫と動物・異種)。いずれも土の中から出てきておててタッチ。三番目は小鳥とラッコ(鳥と動物・異種)。場面は海面のラッコのお腹 の上。四番目は魚たちとと蟹と蛸(魚と軟体動物と甲殻類・異種・1対多数)が海中でと、様々な者が様々な場所でうれしそうにおててタッチをする姿が描かれ、子どもたちは、おててタッチが楽しいもの、よいものとして捉えていくのではないでしょうか。
最後に親子三人の家庭の父親の出勤場面です。娘が父親の鞄を玄関まで持って行き、 「いってらっしゃい」のタッチ。最後のページでは、「よくできました。」ということ でしょうか、母親が娘の頭を撫でながら、おててタッチをしています。
タッチをする時は目線を合わせ、気持ちを合わせる必要があります。私は、発達障害や愛着に問題を抱える子どもたちとの関係作りのためにハイタッチをしたりしました。手の出し方、合わせた手の力の入れ方、目線をあわせるかどうかなどから子どもの状況を理解する事ができました。
「おててたっち」の行動には、その場に合わせて「よろしく」「やったね!」等様々なメッセージが込められていることや相手との気持ちの合わせ方などのコミュニケーションであると思います。人との関係を良好にする方法の一つをこの本は提示してくれているようです。
この絵本は、すべてのライフスキルの元となる「アタッチメント」(≒愛着)の一つである「ハイタッチ」をテーマにしています。絵本を見ながら、親子で「ハイタッチ」をしてみたくなります。大きさの違う親子が目線を合わせて、手の動きとしては全く同じもの、つまり合わせ鏡のような動きが成立する「対等なスキンシップ」が描かれています。
この「ハイタッチ」を楽しむために、「子どものミラーニューロン」が賦活することが前提されていると推測されます。「楽しいハイタッチ」が繰り返されるということは、
「共感性」「自己認識」スキルをはぐくむと同時に、対人関係スキル、コミュニケーションスキルが身についていくことにつながります。視覚に問題のないお子さんでは、「目線を合わせる力」という力もトレーニングされています。もちろん視覚に問題があったとしても、大人のちょっとした工夫で「大人と幼児のハイタッチ」は成立します。
みなさんも小さなお子さんとこの絵本を楽しんだら、そのお子さんとハイタッチをしてみてください。
蛇足ですが、「ハイタッチ」は、大人同士、また異性との間でも、「安全性の高い、よいタッチ(身体接触)」であり、お互いの共感を伴った感情を通わせることができる行動です。
*アタッチメント(Attachment):心理学用語。乳幼児が養育者(母、父、祖父母など)との間に築く「情緒的なきずな」を意味します。
*ミラーニューロン(Mirror neuron):霊長類の脳内で存在することが確認された神経細胞を指します。他の個体が行動するのを見ているとき、両方の個体で活動電位を発生させる神経細胞です。1996年にマカクザルの実験から偶然に見つかったとされています。
*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、
意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス
対処スキル 以上10の技術のことです。WHOが1993年に「おとなになるまでに、身に着けてほしいスキル」として提唱しました。
廣岡綾子・逸樹