☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会 (25)
2023年 5月
『おかあさん、げんきですか。』後藤竜二作 武田美穂絵 ポプラ社

タイトルを挟んでお母さんと男の子が何やら対決姿勢の表紙に緊張感があふれていま す。武田美穂さんの線太の絵がバンバン向かってくる感じです。
男の子は小学4年生、授業で「母の日」のために、お母さんに手紙を書いているのです。
隣のユースケ君は「いつもごはんをつくてくれてありがとう」とすらすらと書いていますが、男の子は恥ずかしいからと言いたいことを書くことにします。書き出しはおかあさん、げんきですか?ぼくはげんきです。毎日会っているのにと思いますが、この書き出しにテレがうかがえ、微笑ましいです。
言いたいことは3つありました。①お母さんは何か言う度に「わかった?」と付け足す口癖を辞めてほしい。僕はもう赤ちゃんではないから、「わかった?」といわれなくても、わかってる。
②僕の部屋を勝手の掃除して、勝手に物をすてるのは止めてほしい。ぐちゃぐちゃにして、なつかしいものたちにかこまれていると、やさしい気持ちになれる。思い出のある物を全部捨てられて恨んでいる。僕の部屋のことは、僕にまかせて。
➂おまけとして(テレていますね。)家事に仕事にと頑張るお母さんをカオルちゃんは「カッコいい!」とあこがれているけど、あんまりがんばらないで。
おこずかいをつかいはたしてビンボーなので、カーネーション1本とお茶わんあらいけんをおくります。ありがとう!(このありがとうのフォントはかなり大きいサイズです。)
最後の絵は帰宅してすぐらしいお母さんが、上着も鞄も置かずに立ったまま手紙を読んでいます。テーブルにはコップにいけられたカーネーションが一輪。お母さんの手はそこに添えられています。お母さんの表情がとても柔らかいです。
何だか短編映画を見ているような作品です。
小学4年は10歳ですから、学校では1/2成人式を行うところもあるでしょう。歳の数え方も「つ」の字がなくなることで発達的にも境としての捉え方がされています。
お母さんはシングルマザーのようですから、仕事に家事、子育てに奮闘の毎日でしょう。
男の子もお母さんと向き合う時間が少ない毎日であることが想像できます。だからこそ自分の考えや希望を飾らずに手紙にしたのだとわかります。
大人になっていくことは等身大の自分がわかること、自分を相手に説明できること、助け合いができることだと思いますが、そのことに至る成長の姿が垣間見えるようです。
この絵本の中で描かれているライフスキルの中で重要なのは、まず「自己認識(≒自己理」です。自分のことをある程度客観的に理解し表現できるようになるには、4年生くらいの年齢まで発達を待たなければなりません。そんな10歳の子どもらしい発達の姿がよく描かれていると思います。
「自己理解」を、直接自分の言葉で他者に伝えることはとても難しいことです。でも幸い、「手紙を書くという方法」を使ってみるチャンスが、母の日まじかの「ぼく」のクラスの授業時間に訪れました。日常生活の中の母子の関係だけだと手紙を書くという方法を試してみることはおそらくないでしょう。
もちろん、他の9個のライフスキルもフルに使って、「ぼく」は手紙を自分自身のことばで書き、最後に大きな「ありがとう!」という感謝の言葉を添えて、お母さんに手渡すことができました。そして、おかあさんは、しっかりと「ぼく」の言葉を受けとめました。最後のページのおかあさんの表情と態度がそのことを雄弁に物語っています。
私は、ブログを書くためにこの絵本を初めて読みましたが、一読してだいすきになりました。武田美穂さんの絵もこの作品にピッタリはまっています。

*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、
意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス
対処スキル 以上10の技術のことです。WHOが1993年に「おとなになるまでに、身に着けてほしいスキル」として提唱しました。
廣岡綾子・逸樹