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☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会 (27)         

2023年 7月

『ぼくらのサブウェイ・ベイビー』

    ピーター・マーキュリオ文 レオ・エスピノーサ絵

 サウザンブックス社


最近、性の多様性をテーマとした絵本が出版されるようになりました。人間の在り様の解明と理解、人権意識の広がりが背景にあると思います。

この作品は、この本の作者の同性パートナーであるダニーが、1999年8月ニューヨークの地下鉄の一角で赤ちゃんを保護し、その後二人がその赤ちゃんと養子縁組し育てたという実話にもとづくものです。地下鉄の利用客が赤ちゃんを保護したことは、当時テレビや新聞で報道され注目をあびたそうです。

 その後の彼らについては、20年ほど経って絵本が出されたことで、また知られることになりました。BBCのニュースサイトで絵本のことを知ったこの本の翻訳者、北丸雄二氏は直ぐに、日本での出版に動きました。こうして私たちもこの出来事を知ることができました。

 日本もここ数年、同性愛者の生産性に言及する国会議員、旧統一教会の家族観、LGBTQ理解増進法、教育現場で性の多様性をどう扱い、取り組んでいくかなどの問題が次々に出てきています。

私の記憶では、性の在り様についての日本社会の認識は、20年くらい前までは主にⅬとGの方に関してだけだったと思います。その後さらにBとTの方、さらにQと+の方へと認識が広がってきて最近LGBTQ+という言葉として使われ出したと実感しています。

 私は10数年前、ネイティブアメリカンの人達は、早くから今言うLGBTQのような性の理解していたと知り、その叡智にいたく感じいったことがありました。日本はようやくそこにたどり着いたわけです。

主人公のカップルは、まだ全米で同性婚が認められない時点でしたから、様々な困難があったと思います。さらに二人は子育て体験もなく、裕福でもなく、住まいは狭い、赤ちゃんは黒人系でした。(二人は赤ちゃんが黒人系であることで躊躇したということは全くなかったようですが、アメリカ社会では今だ黒人というだけで不利益があることは皆さんご存じのとうりです。)二人にあったのは赤ちゃんを思う気持ち、3人で家族になりたいという強い気持ちでした。

赤ちゃんとの養子縁組を勧めてくれた女性判事は「愛があればなんだって可能」と励ましてくれましたし、赤ちゃんの親族になる人たちも支援してくれました。子どもの幸せの為にはたくさんの人の愛が必要ですね。



彼らが家族になって10年後、世の中も変化し、作者ピートは、ダニーと2013年に晴れて結婚することができました。赤ちゃんだった彼は大学生。好きな学問やスポーツを楽しみ、パパとダディと三人で幸せに暮らしているそうです。(カバー裏書)三人の笑顔の写真も添えられていますが、この本の穏やかな絵と色調が三人の幸せ感を表しているように思います。

 一組の同性愛カップルが救ったのは一人の男の子かもしれませんが、この出来事が新たな勇気と可能性を生んで幸せな子どもを増やすことに貢献していると思います。

様々な理由で子どもを育てられない人がおられる事、子どもを育てるために大変な苦労をしている人がおられる事はどんな時代にも変わらないのかもしれません。どんな子どもも安心して成長できる社会にしていく事は、いつも変わらず大人の務めです。


 今まで、26冊の絵本をライフスキル(直訳すれば、「生きる技術」)という視点を交えて、紹介してきました。今回は、ライフスキルを身につけていく基となる赤ん坊と大人との出会いを描いた実話です。

 人間の子ども期は、小さければ小さいほど、誰かが栄養を与え続けなければ、この世で命を維持することすらできません。その栄養とは、身体を成長させていく物質的なエネルギー供給(主には食物)はちろんのこと、「愛」という心へのエネルギー供給が、人の社会で生きて、次世代を守り育てる役割を持った大人になるためには欠かせないということを改めて感じさせてくれる一冊であること、そしてその赤ん坊を育てる「親」が同性愛のカップルであること、またこの物語が実話であることを翻訳者である北村雄二さんのお話から知り、ぜひ皆さんに紹介したくて、私(廣岡逸樹)から、取り上げようと提案しました。

 この絵本を読んで、「愛」とは?「生きる」とは?ということを改めて自分自身に問いかけてみました。宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」を封切り初日に観に行ったことも関係しています。もちろん、答えがすぐにでるものではありませんが、このような絵本を素材にして、身近な人と語り合う。そんな時間的ゆとりが欲しいと思っています。

 ①そもそも、子どもが「ライフスキル」を身につける意味は何か?

 ②何のために子どもが10個のライフスキルをほどよく身につけて欲しいと私たちは考え ているのか?

 ③生まれ、育てられる「子ども」という存在から、産み、育てる存在の「大人」に発達し ていく。これが、命を未来につないでいく、人やそのほかの多くの動物の発達の基本にあ ることは間違いありませんが、2018年、「同性婚は生産性がないから不要だ」言いきっ た女性の衆議院議員の主張は正しいのか?本当にそうなか?

 ④このような議員とどのような対話が可能なのか?

⑤「愛があればなんだって可能」と、養子縁組を同性カップル2人に進めた判事さん。こ のような人間愛にあふれる判事(裁判官)が日本にいるのだろうか?

  などなど、話し合ってみようと思った一冊です。


*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、

意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス

対処スキル 以上10の技術のことです。WHOが1993年に「おとなになるまでに、身に着けてほしいスキル」として提唱しました。

廣岡綾子・逸樹   

             

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