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☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会 (28)            2023年 8月

    『どうしてこわいの?』

          フラン・ピンタデーラ文   アナ・センデル絵 偕成社


夏と言えば怪談話。地元の小学校の読み聞かせでも6年生に怖い昔話のストリーテリ ングをしました。

さて、今月の絵本は図書館の新刊コーナーに入っていました。表紙はなにやら恐ろし 気な雰囲気。内容は父子の会話を通じて、「こわい」ということを考える本でした。

 表紙をめくると星空のような背景に黒い大きな卵状の物が描かれています。まるでブ ラックホールのようです。カバーの左折り返しには「だれでも こわいっておもうこと は ある。」とあります。アナは黒い卵をこわいものとして描いたようですが、「こわ い」という感情を考える入口のようにも見えてきます。

次のページには作者と訳者3人の「こわい」についての体験やメッセージがあります。

テーマがテーマですから、大人たちのメッセージがこれから読み進むための勇気づけの 役割を果たしていると思います。

いよいよお話が始まります。

 マックスの家では夜、雷が鳴ったあと停電になり、お父さんがろうそくを灯してくれ ます。ろうそくの火ををじっと見ていたマックスはふっとおもいたって、お父さんに「おとうさん、こわいと おもったこと ある?」といいました。

 お父さんは「だれでも こわいっておもうことは あるよ。」と言って、どんな時に 「こわい」と感じるのか、どんな感覚なのか、こわくないふりをしているひともいると 色々話してくれました。

そして、ひとりぼっちがこわい時、きっと抱きしめてくれたり、温めてくれる人   はいる。どんなこわいが あったとしても、きみのまえには、みちがあるとお父さんは 言います。

 各ページに必ず黒い卵がでて来ますが、きみのまえには、みちがあると話してくれた

ページでマックスは割れた黒い卵を持って、前に進んで行きます。卵からは光線が出て いるようで、彼が進む先になにか3つの黒いものが彼に目を向けています。「こわい」 は決して無くなりませんが、その正体を知れば、前に進んでいけると言っているようで す。

この後、停電は復旧し、お父さんが電気をつけようとしますが、「もうちょっと こ のままがいいな。だって、おはなしにぴったりの よるだもの。」とマックスは言いま す。どんなおはなしがいいのか聞くお父さんに「こわいおはなしが いいな!」と応え ます。

停電しろうそくの灯りの元でされた、いつもとは違う父子の会話。人の本質に関わる ことをお父さんに聞くことができたマックスは、最後のページでお父さんの膝枕で「こ わいおはなし」を聞いています。テーブルの上の黒い卵は割れて、黒い鳥が飛び去って います。安心できるお父さんから聞く「こわいおはなし」はきっと良かったでしょう。

お話はこれで終わり、次のページにはこの本を読むにあたってという解説があり、さらにカバー の右折返しには作者二人のメッツセージ入りです。「こわい」を最後まで考えさせられ ます。

私たちは、一生「こわい」ことと付き合うことになります。「こわい」は自分を守る感情ですから、子どもとも積極的に話し合い、理解する必要があるとこの本は教えてくれていると思います。

 本作品のように感情をメインに扱う絵本も多くなりました。お話の本もストーリーだけでなく、もっと感情を理解しながら読むとよいのではないかと思います。絵本は言葉だけでなく絵で表現された感情に注目して見るのも楽しいですね。


この絵本の中で中心となるライフスキルは、なんと言っても「感情対処スキル」です。もちろん、「自己認識」「共感性」「意志決定スキル」「ストレス対処スキル」も大きく関係しています。今回は「感情対処スキル」について、一緒に考えたいと思います。

 原初的な感情は、「快・不快」です。そして、それが分化していき、複雑な感情を持つようになります。一般的には「喜怒哀楽」という4文字で表すことが多いと思います。(実体験としては、もっと複雑です。)脳の部位としては、「扁桃体」と言われているところが大きく関係しています。(私は実物を見たことはありません。)

 「こわい(恐怖)」という感情は、「快・不快」で言えば、当然「不快」から分化した感情です。そして、「ヒト」が生き残るためには、とても大切な感情。人が生き延び子孫を残すためには、命を脅かす危険な外界物は、理性的に判断するよりも、とにかく瞬時に判断し行動することが必要になるということは理解できると思います。命を脅かすほどの事象にそうぐうしたときに、瞬時に体験するのが「怖い」という感情です。つまり、「生き延びたかったら、とにかく、逃げろ!」という「サイン」つまり「扁桃体の興奮」ということになります。

実際の社会生活の中では、他の感情(例えば、喜怒哀楽)と同じように、その感情の赴くままに行動するわけにはいきません。そこで感情をコントロールする仕組みも脳には備わっています。その中心となるのが「前頭前野」です。「前頭前野」が、「偏桃体」の興奮を沈める役割を担っています。「前頭前野」は、「理性」「論理的思考」を行うときに賦活化します。

 森の中で出会う蛇と動物園のガラス越しに見る蛇は、恐怖感が全く違いますね。えっ?全く同じ恐怖だって?それは、前頭前野が十分に働かず「偏桃体の興奮が暴走している」状態ということになります。

 「不快」から分化した「恐怖」をコントロールするのには、もうひとつ重要な要素があります。それは、「偏桃体」そのものの「別の興奮」つまり「ここちよい」「ここにいることが命を守り、生きていくうえでベターなのだ」という「感情」を味わう(体験する)ことです。この二つの感情のほどよいバランスが、ほどよく生きていくストレスケアとして重要です。そんな場面も最後に用意されています。


 多くの冒険小説(例えば、指輪物語、ゲド戦記など)は、「こわいもの」に立ち向かい、乗り越えていく物語ですね。乗り越えるとは恐怖を与えた対象を破壊し、消し去ることにあるのではなく、「新たな自分自身」を発見していく「自己認識」にこそ、心の豊かさにつながる醍醐味があるように思います。

 今、私は「核兵器禁止」ではなく、「核抑止論」が日本の政治の中で幅を利かせてきていることに、「強い、強い恐怖」を感じています。しかし、絶望し、あきらめるのではなく、この「こわい」に目をそらさず、心ある仲間たちとともに、「恐怖を与え続ける者たち」に、非暴力に抗い続けたいと思っています。私たちの子ども、孫、そして未来の子どもたちのために!


*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、

意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス

対処スキル 以上10の技術のことです。WHOが1993年に「おとなになるまでに、身に着けてほしいスキル」として提唱しました。

廣岡綾子・逸樹 

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