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☆彡 子どもの幸せ・絵本・社会 (30)         2023年 10月   『よりみちエレベーター』 土屋富士夫

更新日:11月12日


 エレベーターには扉に窓が無いことが多いです。開いて初めて中に人がいるかいないか、いればどんな人かがわかります。エレベーターの扉が開くときのちょっとした心の動きは、直前まで中が見えないことから生まれるのかもしれません。

 この表紙のエレベーターからは、いるかや骸骨、コウモリ等々怪しげな者たちが降りてきそうです。

主人公のひで君はアイスクリームを買ってきたお母さんから、近くのマンションに住むおばあちゃんに届けるように頼まれました。溶けないうちに届けなくてはなりません。急いで届けなければという緊張感が表紙を開くとすぐに話が始まるという表現から感じられます。

おばあちゃんの住む5階にエレベーターで行こうとボタンを押しますが、なんとエレベーターは拒否します。理由は「まいにち おなじところを いったり きたりであきちゃったんだ。きょうは どこか ほかに いきたいきぶんなのさ。」です。

 ひで君はエレベーターに抗議し、5階に行かないなら降りるというと、エレベーターはしぶしぶ5階に向かおうとします。その時、なぜか寝坊して困っている機関車が次の駅まで乗せてくれとやってきました。ひで君は5階が先だと大声で叫びますが、他のところに行きたかったエレベーターは、がぜん元気になって次の駅まで機関車を乗せていきました。

2階では、宇宙船を探している迷子の宇宙飛行士が二人乗ってきました。宇宙船を探してあげて、見送ったあと、3階で墓場に行ってほしいという骸骨が、、、4階ではいるかがハワイまでと言います。その後やっと5階に。アイスクリームをおばあちゃんに渡すと、急いで帰るひで君。これまで宇宙旅行や墓場パーティーに誘われたのですが、アイスクリームを届けるために断ったのでした。ハワイでもいるかに一緒に遊ぼうと誘われ、心残りながらアイスクリームを優先したひで君でした。お使いを果たしたら、エレベーターにハワイ行きを頼みます。エレベーターは「もちろんだよ、まかしとき」と応えます。めでたしめでたしです。

奇想天外なおもしろいお話ですが、毎日同じことに飽きてしまうエレベーターの気持ちはわかる気がします。同じことが繰り返される安定は大事ですが、私達には時に変化が必要であり、その中で新たな体験や自分の発見が生まれると思います。ただしこのお話ではその変化が誇張されていますが、、、、。

 一方、とにかく溶けないうちにアイスクリームを届けなければならないひで君の焦り。その中でもどこか知らない駅、行ったこともない宇宙、行きたくもない怖い墓場、魅力いっぱいのハワイに遭遇する体験をさせられることは、ひで君にとってはどうだったのでしょうか? ひで君にすれば突然の望みもしない大きな変化、出来事です。

しかし、お使いを果たすためにエレベーターに抗議したり、繰り返される誘いを断ったひで君はあっぱれでした。お使いを済ませて、遊びたかったハワイに向かったひで君は、嬉しさでいっぱいだったでしょう。後のことは想像するばかりですが、ハワイに向かう途中でエレベーターと話が弾んで、「君の気持ちもわかるよ。」なんて言っているかもしれませんね。

 エレベーターから、機関車やがいこつなどが次々に現れるなんて、なんて奇想天外なストーリーでしょう。今回の関連スキルの一番は、なんといっても、「創造的思考」ですね。他に、「対人関係スキル」「意思決定スキル」つまりお母さんとの約束を守って、いかなる誘惑にも負けないで、おばあちゃんにアイスクリームを届けるというよい対人関係を維持していくにはとても大事な「約束したことを守る」というスキルやあらゆる誘惑にもめげない「意思決定スキル」も表現されています。そして、お使いの約束をきちんと守った後は、「ゆっくり、しておいき」というおばあちゃんの誘いも断って、途中で体験した中で一番楽しそうだったハワイの海にエレベーターに連れてもらって、大満足(裏表紙の表情を見てくださいね)。

 もちろん、「自己認識」つまり自分にとって何が楽しいことなのか、また、少しの間がまんしても、一度決めた人との約束はきちんと守るという力もきちんと発揮しています。「自分とはどういう存在なのか」という「自己認識」がひでくんにはちゃんと育っています。また、アイスクリームを届けるとだいすきなおばあちゃんが喜ぶだろうという「共感力」も育っていることが読み取れます。


 「創造的思考」について、少しお話します。「創造的思考」とは、それまでの発想ややり方に囚われず、まさに自由に新しいものを創り出す力のことです。自分の力ではどうすることもできない無力感を感じることも多い今の世の中(地球上)ですが、その事実にへこたれずに未来を切り開いていくための私たちの原動力となるスキルです。

 芸術の分野とも大きく関係しています。遺伝か環境か、どちらかと言えば、「遺伝的要素」が強く関係しているように感じることも多いですが、この絵本のように奇想天外な絵本を読む、楽しむという「絵本という環境」も、私たちの身近な美術館として、「創造的思考」を育んでいくにはとても大事だと私は思っています。

 みなさんは、どうお考えでしょうか?

 えっ、そんなへ理屈をこねくり回さないで、まず楽しく読もうですって?

 まったく、同感です。この絵本を読んで、私たち大人の「創造的思考」を少し磨いてみましょう。私たちの脳のまだまだ発展途上?

*ライフスキル:自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、

意志決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、批判的思考、感情対処スキル、ストレス

対処スキル 以上10の技術のことです。WHOが1993年に「おとなになるまでに、身に着けてほしいスキル」として提唱しました。

廣岡綾子・逸樹

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